打田翠インタビュー

子供の頃から周囲の人にのんびりしてるねって言われてきましたけど、平和な環境で幸せに生きてこられたと思います。芸術大学を選んだのは、会社員として働くことは想像がつかず何か手に職をつけようと考えてのことで、陶芸コースを選んだのは「なんとなく」でした。でも入学してまもなくの授業で土を触っている時に、私はきっと陶芸を続けていくんだろうなと感じたのをはっきり覚えています。大学ではオブジェに取り組む人が多かったのですが、私はろくろで練りこみの壺を作っていました。卒業後どうやって陶芸を続けていけばいいのかと考えていた頃、多治見の意匠研究所の存在を知り入所することにしました。多治見に来てみると多くの先輩が若手の陶芸家として活躍していることを知り、未来のイメージが湧きました。意匠研では自分の感覚を知るための授業が印象に残っています。例えば手でぎゅっと握っただけの土の塊を10 個ぐらい作って、その中でどれが一番好きかを選んで自分の感覚をよりはっきりさせていくというようなことです。自分の作品を作るということはどういうことなのか、自分はどんな作品を作りたいのか、ということがその2年間の学びで少しずつわかりました。その頃作っていたものと今作っているものは技法は変化していますが、表現しようとしている事はそれほど変わっていないです。漠然と頭の中にあるイメージに近づけていく制作を繰り返し、1本の線で繋がったまま今の作品に少しずつ変化してきました。手びねりで美しいと思う形を丁寧に作り上げ、それを焼成するのですが、陶芸の焼成という工程との関わり方が自分の表現にとってとても重要だとだんだんと気づきました。今は偶然性の強い炭化焼成という技法に主体的に向き合っています。焼成という自然現象の中で、偶然と自分の意思がせめぎ合い、窯の中から美しいものが立ち現れたとき、「生まれた」と強く感じます。意図だけでは届かず、偶然だけでは足りない。その2つが繊細なバランスで結びつき、生命のような美しさが宿ったと感じたときに、「生まれた」と感じることができるのです。遠い記憶の中のいつか見たような景色やあたたかな記憶。まだ見たこともない美しい景色や未来への期待や希望のようなもの。未来のような過去のようなまだ見ぬ景色を見つめ、美しい偶然を自ら手繰り寄せ、「生まれる」瞬間を重ねていきたいです。その過程そのものに希望を感じるし、私の生きたい人生のすがたと重なると感じています。

 

 

この記事は2023年5月に行われたインタビューをもとに、2025年、加筆・修正したものです。


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