長野史子インタビュー

彼女のガラスを手にとって眺めていると、そこに温度や光、宇宙、生命の煌めきを感じる。詩情あふれる作品を創り出す長野史子さんに話を伺った。

幼い頃の記憶で、強く印象に残っている光景があるという。

「実家は材木屋だったのですが、木のいい匂いがする現場が大好きでした。大工さんたちが働く現場を見上げていると、おがくずが舞ってキラキラと光っていて…その光景を今も鮮明に覚えています。」

宇宙について想いを巡らせたり、空想の世界で遊ぶのが好きなのは子供の頃から変わらないと笑う。そんな彼女がガラス作りに初めて触れたのは学生時代に参加した吹きガラスのワークショップ。その出会いで感じたのは痛いほどの熱さで、最初の印象は必ずしも良いものではなかった。ただ、ドロっとした生き物のようなガラスに強烈な印象を受けた。ガラスに惹かれる理由について彼女はこう話す。

「溶けたガラスをるつぼから巻き取る時はいつも感動してしまいます。赤く熱く輝いていて命の塊みたいだなって。そういう存在に常に触れていたいと感じます。ガラスって熱くもあり冷たくもあり、鋭くもあるし、柔らかくもある。そうした矛盾する面を持っているところが、すごく人間ぽいなと思います。それでいて透明なんて、ずるいですよね。」

子供の頃から身の回りの世界に不思議さや美しさを感じてきた長野さんが創る作品は驚きに満ち、見る者を日常から離れた別の世界へと導く力を持っているが、誰よりも彼女自身がガラス制作を通して自由自在に時空を飛び越え、そこで感じること、目にすること、予想に反して起こった結果にさえも心躍らせ、生きていることを実感している。

「創っていると眠気や食欲なんてなくなって無になることができます。作品にはそれぞれエピソードがあるんですけど、例えばサイコロの作品DICEは、外出が不自由だった出産前後の頃に小さな自宅工房で生まれました。閉じ込められているのに浮かんでいるようにみえる数字を見ていたら解放された感じがしました。透明ゆえの不思議。宇宙はいつでも手のひらの中にあると感じることができました。中に浮かんでいるのは数字ですが、数字は人類の発明ですよね。これ以上ないほどシンプルで世界中の誰もが知っている特別な線。美しくて時を忘れずっと見ていられます。時といえば、時の概念こそ人の作り出した創造で、それを象徴的に表したのが数字。そんなことに思いを馳せている時間が好きです。」

人間による創造と宇宙や自然の法則、その両方で成り立つ世界を感動を持って見つめる長野さん。最後にものを作ることについてこう語ってくれた。

「私は写真や映画や建築、舞踏も大好きですが、それらの創造を通して光を見ている気がします。今まで創ったもの、どうしても惹かれる世界などを紐解くと光をつかまえたいのかもしれないと思います。もっというと光と影をとらえたいのかもしれないです。心震えるものに出会った時、その心の震えがその人の一部になっていきますよね。私の手からうまれたものが誰かの一部になる様なことがあったら嬉しいなと思っています。」


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